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はじめに

政策金利の25bp引下げを決定した10月のFOMCでは雇用の下方リスクの強まりが共有された一方、FOMCメンバーの多く(many)は経済が見通し通りに推移すれば、年内は金融政策の現状維持が適当との見方を示した。

物価情勢の評価

FOMCメンバーはインフレ率が2%目標に比べて幾分高い点を確認し、住居費上昇の減速を関税引上げの影響による財のインフレ率の加速が上回っていると指摘した。

また、数名(several)のメンバーは関税引上げの影響がなければインフレは2%目標に近かったとしたが、多数(many)は2%目標への適時かつ持続的な収斂の兆しが見られないと反論した。

今後については、2%に向けて緩やかに低下する前に高止まるとの見方を広く(generally)共有した。この点に関し、数名(several)のメンバーはコアサービスのインフレ率が高止まるとしたほか、多数(many)が関税引上げの影響もあって財価格のインフレが今後数四半期にわたって高まるとした。後者に関しては、数名(several)が関税引上げの影響やタイミングの不透明性にも言及した。

一方、数名(a few)のメンバーは自動化やAIによる生産性上昇に伴う企業の収益マージン拡大によって、コスト上昇の波及は抑制されるとしたほか、数名(a few)は労働市場の軟化、2名(a couple of)は移民政策の変更による住宅需要の減退を各々インフレ抑制の要因として挙げた。

FOMCメンバーは、短期のインフレ期待がやや低下したほか、長期のインフレ期待は安定している点を確認した一方で、多数(various)のメンバーが長期のインフレ期待の上昇は持続的なインフレの上振れにつながるとの懸念を示した。また、多数(many)がインフレの上方リスクを指摘し、関税引上げの影響が減衰した後もインフレが想定以上に高止まる可能性を指摘した。また、数名(a few)は、通商摩擦による供給制約に懸念を示した。

経済情勢の評価

FOMCメンバーは経済活動が緩やかに拡大しているとの見方を示したが、多数(a number of)は、政府機関の閉鎖以降に支出関連の統計が欠落しているため、評価が困難とも付言した。

消費については、足元での改善の兆しを広く(generally)共有したが、多数(many)のメンバーは、株価上昇に支えられる高所得層と高価格や経済の不透明性の下で価格感応度を高める低所得層に大きく分かれていると指摘した。このため、数名(a few)は消費の基盤が広がりを持たない点に懸念を示したほか、2名(a couple of)は住宅市場の弱さとaffordabilityの低下を指摘した。

企業については、多数(many)のメンバーがハイテク投資、特にAIとデータセンターへの投資の強さを指摘し、数名(some)は生産性と総供給の上昇に期待を示した。また、数名(a few)は法人減税や規制緩和、数名(some)は緩和的な金融環境が各々企業活動を支えるとの見方を示した。この間、数名(a few)は、農業部門が価格低下とコスト上昇、外需減少に直面していると指摘した。

FOMCメンバーは雇用者数の増加が減速し、失業率が小幅に上昇したとの見方を示し、こうした判断は民間調査や限定的な政府統計、企業ヒアリング等に基づくと付言した。その上で、これらの情報は、lay offと雇用がともに低調で、労働市場は足元2か月で軟化したが、急速な悪化ではないとの見方と整合的であるとの理解を示した。

また、こうした軟化が、移民の減少と労働参加率の低下による供給要因と、緩やかな経済活動と先行きの不透明性による需要要因の双方に基づくとの理解を広く(generally)共有した。加えて、多数(many)が、AI投資等による生産性上昇といった構造的要因が、労働需要の軟化に繋がる可能性を指摘した。

今後については、企業が新規雇用とlay offの双方に慎重である下で、緩やかな軟化を続けるとの見方を広く(generally)共有した。この点に関し、数名(several)は転職率の低下などが下方リスクを強める点、数名(a few)は経済活動への感応度が高い領域での失業率の上昇が労働市場の弱さを示唆する点に各々懸念を示した。また、数名(some)は雇用の伸びの停滞と緩やかな経済活動との乖離を取上げ、生産性の上昇と人口動態を反映してこうした特徴が持続する可能性に言及した。

FOMCメンバーは、労働市場の下方リスクが強まったとの認識を広く(generally)共有したほか、多数(many)は経済活動の底堅さと雇用の弱さとの乖離によって政策判断が難しくなっており、データによって循環的な弱さと構造的な変化を区別しつつ慎重にモニターする必要があるとした。

金融政策の運営

FOMCメンバーは、インフレ率がやや上昇した一方、経済活動は緩やかに拡大し、失業率は低位ながら小幅に上昇し、雇用の増加が減速した点を確認した。その上で、雇用の下方リスクが高まったと判断し、多数(many)が政策金利の25bp引下げで合意した。

利下げを支持したメンバーは、インフレのリスクが不変ないし年初来で減少したとの見方を示し、1名のメンバーは50bpの利下げを主張した。これに対し現状維持を主張したメンバーは、本年入り後にインフレの目標への収斂が停滞し、継続的な上振れが長期インフレ期待の上昇を招くと指摘した。

その上で、政策スタンスの引締め度合いについては意見が分かれ、数名(some)は、今回の利下げ後も引締め的とした一方、数名(some)は、経済j活動の底堅さや好適な金融環境、実質政策金利からみて明確に引締め的とは言えないと反論した。

12月FOMCでの政策決定に関しても強く異なる意見が示され、多数(many)がより中立的な水準にしていくことが適当としつつ、数名(several)は必ずしも12月の25bp利下げが適切と見ていないと指摘した一方、数名(several)は12月の利下げが適当とした。その上で、多数(many)は、自らの経済見通しに照らして、年内は金融政策の現状維持が適切との見方を示した。

リスクマネジメントの点では、大多数(most)のメンバーが、政策金利の中立化が労働市場の顕著な悪化を防ぐ点を示唆したほか、関税引上げの影響が抑制的である下で、雇用の下方リスクに対応する必要性を共有した。同時に、今後の利下げがインフレを持続化させたり、インフレ目標達成への信認を損なう恐れも共有した。

プロフィール

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    井上 哲也

    金融イノベーション研究部

    

    内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。