はじめに
政策金利の据え置きを決定したECBの10月理事会では、インフレ目標の事実上の達成と経済活動の底堅さを確認した。もっとも、利下げの停止か否かについては意見が分かれた。
世界経済の評価
理事会メンバーは、世界経済が貿易も含めて想定より底堅いと評価しつつ、前年より低調で、来年の回復も限定的との見方を示した。また、人民元が減価する下で中国からの輸入が過去半年で10%も増加するなど輸入圧力が高まった点を確認した。
その上で、世界経済の不透明性は引続き高いとし、通商摩擦の悪化、サプライチェーンの混乱、戦略物資の輸出規制(自動車産業への影響)、地政学リスク等を要因として挙げた。
その上で、世界経済の不透明性は引続き高いとし、通商摩擦の悪化、サプライチェーンの混乱、戦略物資の輸出規制(自動車産業への影響)、地政学リスク等を要因として挙げた。
ユーロ圏の経済活動の評価
理事会メンバーは、経済活動が9月見通しに概ね沿っている点を確認しつつ、足元ではサービスを中心にPMIがやや上振れした一方、足元の工業生産等から製造業の停滞が示唆されるとした。
その上で、外需が停滞し内需が回復する傾向を確認し、前者は関税引上げやユーロ高、後者は観光やIT投資、AIの活用等に支えられていると評価した。こうした傾向は当面続くとの見方も示し、関税引上げの影響は時間をかけて顕在化する一方、大手のIT企業や航空機企業は良い状況にあるとした。
理事会メンバーは、実質購買力の改善の恩恵にも関わらず消費の増加が緩やかである点を確認し、貯蓄の高止まりについて、貯蓄の高インフレ期以前の水準への回復の意向、既往の高金利、税率の引上げや社会保障支出の減少見通し、世界経済の不透明性、一部国での雇用の軟化を要因として挙げた。また、消費の先行きについては見方が分かれた。
この間、労働市場は引続き底堅いと評価した一方、労働保蔵の減少と生産性の上昇を指摘したほか、雇用の軟化に注意すべきとの見方を示した。また、住宅市場は、緩和的な金融環境によって拡大しているが、一部国での住宅価格の高騰に懸念を示した。
一方、設備投資は第3四半期に回復の兆しが見られるとし、既往の利下げ効果や域内国政府によるインフラ投資や防衛支出の増加に支えられて増加を続けるとの見方を示した。ただし、足元の牽引力である無形資産投資が米国に比べて弱い理由として、償却の速さや市場価値の不透明さ等により、銀行中心の欧州の金融システムでは資金調達が難しいため、企業の自己資金に依存する面が多い点を指摘した。
その上で、外需が停滞し内需が回復する傾向を確認し、前者は関税引上げやユーロ高、後者は観光やIT投資、AIの活用等に支えられていると評価した。こうした傾向は当面続くとの見方も示し、関税引上げの影響は時間をかけて顕在化する一方、大手のIT企業や航空機企業は良い状況にあるとした。
理事会メンバーは、実質購買力の改善の恩恵にも関わらず消費の増加が緩やかである点を確認し、貯蓄の高止まりについて、貯蓄の高インフレ期以前の水準への回復の意向、既往の高金利、税率の引上げや社会保障支出の減少見通し、世界経済の不透明性、一部国での雇用の軟化を要因として挙げた。また、消費の先行きについては見方が分かれた。
この間、労働市場は引続き底堅いと評価した一方、労働保蔵の減少と生産性の上昇を指摘したほか、雇用の軟化に注意すべきとの見方を示した。また、住宅市場は、緩和的な金融環境によって拡大しているが、一部国での住宅価格の高騰に懸念を示した。
一方、設備投資は第3四半期に回復の兆しが見られるとし、既往の利下げ効果や域内国政府によるインフラ投資や防衛支出の増加に支えられて増加を続けるとの見方を示した。ただし、足元の牽引力である無形資産投資が米国に比べて弱い理由として、償却の速さや市場価値の不透明さ等により、銀行中心の欧州の金融システムでは資金調達が難しいため、企業の自己資金に依存する面が多い点を指摘した。
物価情勢の評価
理事会メンバーは、インフレ率が2%近傍にあり、9月見通しに概ね沿った動きである点を確認したほか、足元ではユーロ相場やエネルギー価格に主として影響されている点を確認した。
その上で、消費バスケットでの重要性やインフレ期待への影響の観点から食品価格の上昇率の高止まりを取り上げ、上昇の兆しや異常気象の影響に懸念が示された一方、国際商品価格の低下が波及するとの見方も示された。
この間、工業製品(除くエネルギー)の上昇率は低位で安定しているが、一部国で上昇の兆しがある一方、サービス価格の上昇率は既往の賃金上昇率を映じて高止まっていると評価した。もっとも、 ECBのサーベイ調査が賃金上昇率の減速を示唆している点や契約賃金の年次改訂率が低位であること、企業収益がバッファーとなることなどを挙げて、今後の減速見通しを維持した。
理事会メンバーは、長期のインフレ期待が2%にアンカーされている点を確認しつつ、金融市場での短期のインフレ期待は当面の下振れを示唆していると評価した。また、食品価格の上昇とインフレ期待との関係を取上げ、低所得者への影響が大きい点や上昇率でなく水準が問題となりうる点を確認した。さらに、家計が賃金上昇の効果を認識してない可能性や国際商品価格の不透明性の下でインフレを予想することの困難さ等を指摘した。
その上で、消費バスケットでの重要性やインフレ期待への影響の観点から食品価格の上昇率の高止まりを取り上げ、上昇の兆しや異常気象の影響に懸念が示された一方、国際商品価格の低下が波及するとの見方も示された。
この間、工業製品(除くエネルギー)の上昇率は低位で安定しているが、一部国で上昇の兆しがある一方、サービス価格の上昇率は既往の賃金上昇率を映じて高止まっていると評価した。もっとも、 ECBのサーベイ調査が賃金上昇率の減速を示唆している点や契約賃金の年次改訂率が低位であること、企業収益がバッファーとなることなどを挙げて、今後の減速見通しを維持した。
理事会メンバーは、長期のインフレ期待が2%にアンカーされている点を確認しつつ、金融市場での短期のインフレ期待は当面の下振れを示唆していると評価した。また、食品価格の上昇とインフレ期待との関係を取上げ、低所得者への影響が大きい点や上昇率でなく水準が問題となりうる点を確認した。さらに、家計が賃金上昇の効果を認識してない可能性や国際商品価格の不透明性の下でインフレを予想することの困難さ等を指摘した。
金融政策の運営
理事会メンバーは、政策反応関数の3つの要素を順次検討した。
インフレ見通しに関しては、インフレ率が9月見通しに概ね沿っているだけでなく、12月見通しも9月見通しと概ね不変との見方を示したほか、理事会メンバーのほとんど(most)は、リスクが上下にバランスし、その分布も9月理事会時点と不変とした。
もっとも、数名(some)のメンバーは下方リスクがより大きいとし、関税引上げによる外需減少のさらなる顕在化、中国からの輸入圧力、サプライチェーンの混乱を挙げたほか、戦略物資の供給制約は(非代替財なので)インフレ圧力でなく生産の縮小を招くとした。さらに、ユーロ高や域内国の財政拡大の遅延、家計貯蓄の高止まりも要因として挙げた。
これに対し、数名(a few)のメンバーは上方リスクがより大きいとし、外部機関によるインフレ予想がECBより高い点、企業や家計によるインフレ期待の上昇、需給ギャップの改善や域内国による財政支出の拡大、サプライチェーンの混乱や戦略物資の供給制約、異常気象などを要因として挙げた。
基調的インフレに関しては、関連指標が2%目標と整合的である点に合意したほか、国内インフレ率が久々に上昇したが、労働コストの低下を背景にコアインフレの減速が続くとの見方も確認した。なお、賃金上昇率については、想定より下振れするとの見方と、高止まるとの見方に分かれた。
最後に、政策効果の波及は引き続き円滑で効果的と評価したほか、既往の利下げ効果が設備投資を下支えするとの見方を示した。もっとも、ECBによる量的引締めとユーロ高が金融環境の若干の引締まりを招いているとの指摘もあった。
これらを踏まえ、理事会メンバーの全員が政策金利の据え置きに同意し、インフレが9月見通しに概ね沿った動きとなっている点や、通商摩擦や地政学リスクを中心とする不透明性が引続き高い下では、政策金利の据え置きが合理的との判断を示した。
また、現在の政策金利が、インフレに関して上下双方のリスクがある下でのショックに対応する上で、十分に頑健であると評価し、金融政策が良い状況(a good place)にあるとの評価を維持した。
もっとも、利下げの終了については、緩やかで一時的なインフレの変動に対して政策を微調整すべきでなく、大きなショックへの対応の余地を残すべきとの意見と、下方リスクの顕在化に対して更なる利下げに柔軟であるべきとの双方の意見が示された。
インフレ見通しに関しては、インフレ率が9月見通しに概ね沿っているだけでなく、12月見通しも9月見通しと概ね不変との見方を示したほか、理事会メンバーのほとんど(most)は、リスクが上下にバランスし、その分布も9月理事会時点と不変とした。
もっとも、数名(some)のメンバーは下方リスクがより大きいとし、関税引上げによる外需減少のさらなる顕在化、中国からの輸入圧力、サプライチェーンの混乱を挙げたほか、戦略物資の供給制約は(非代替財なので)インフレ圧力でなく生産の縮小を招くとした。さらに、ユーロ高や域内国の財政拡大の遅延、家計貯蓄の高止まりも要因として挙げた。
これに対し、数名(a few)のメンバーは上方リスクがより大きいとし、外部機関によるインフレ予想がECBより高い点、企業や家計によるインフレ期待の上昇、需給ギャップの改善や域内国による財政支出の拡大、サプライチェーンの混乱や戦略物資の供給制約、異常気象などを要因として挙げた。
基調的インフレに関しては、関連指標が2%目標と整合的である点に合意したほか、国内インフレ率が久々に上昇したが、労働コストの低下を背景にコアインフレの減速が続くとの見方も確認した。なお、賃金上昇率については、想定より下振れするとの見方と、高止まるとの見方に分かれた。
最後に、政策効果の波及は引き続き円滑で効果的と評価したほか、既往の利下げ効果が設備投資を下支えするとの見方を示した。もっとも、ECBによる量的引締めとユーロ高が金融環境の若干の引締まりを招いているとの指摘もあった。
これらを踏まえ、理事会メンバーの全員が政策金利の据え置きに同意し、インフレが9月見通しに概ね沿った動きとなっている点や、通商摩擦や地政学リスクを中心とする不透明性が引続き高い下では、政策金利の据え置きが合理的との判断を示した。
また、現在の政策金利が、インフレに関して上下双方のリスクがある下でのショックに対応する上で、十分に頑健であると評価し、金融政策が良い状況(a good place)にあるとの評価を維持した。
もっとも、利下げの終了については、緩やかで一時的なインフレの変動に対して政策を微調整すべきでなく、大きなショックへの対応の余地を残すべきとの意見と、下方リスクの顕在化に対して更なる利下げに柔軟であるべきとの双方の意見が示された。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。