はじめに
日銀は今回の金融政策決定会合(MPM)で政策金利の据え置きを決定した。本コラムでは、今回改訂された展望レポートと植田総裁の会見から、今後の政策運営にとっての注目点を検討する。
経済見通しの上方修正
今回の展望レポートによれば、2025~26年度の成長率見通しは、各々0.2ppと0.3pp上方修正され、2027年度の下方修正(0.2pp)も機械的要因(政府の経済対策の剥落)が理由であるなど、全体として前向きなものとなった。
その主因は、通商政策による内外経済の減速が以前の想定より小さいとの判断にある。この点は、米欧の中央銀行が12月に行った見通しの上方修正と整合的であるほか、国内での企業収益の好調さと設備投資姿勢の強まりを背景としている。また、政府の経済対策については、2025年度の補正予算による需要面での下支えを考慮に入れている。
結果として、中心シナリオとしては、見通し期間を通じて潜在成長率をやや上回る状態が維持され、マクロの需給ギャップが改善を続ける姿が示されている。このような見方は、金融市場とも概ね共有されているとみられる。
展望レポートは、見通しに関するリスクも上下にバランスしているとの判断に上方修正し、政策委員のリスクバランスチャートも見通しの上振れないし下振れを指摘する向きが少ない。植田総裁も、少なくとも前回の展望レポートに比べて、見通しの実現確度が上昇したとの見方を示唆した。
その主因は、通商政策による内外経済の減速が以前の想定より小さいとの判断にある。この点は、米欧の中央銀行が12月に行った見通しの上方修正と整合的であるほか、国内での企業収益の好調さと設備投資姿勢の強まりを背景としている。また、政府の経済対策については、2025年度の補正予算による需要面での下支えを考慮に入れている。
結果として、中心シナリオとしては、見通し期間を通じて潜在成長率をやや上回る状態が維持され、マクロの需給ギャップが改善を続ける姿が示されている。このような見方は、金融市場とも概ね共有されているとみられる。
展望レポートは、見通しに関するリスクも上下にバランスしているとの判断に上方修正し、政策委員のリスクバランスチャートも見通しの上振れないし下振れを指摘する向きが少ない。植田総裁も、少なくとも前回の展望レポートに比べて、見通しの実現確度が上昇したとの見方を示唆した。
物価見通しの据え置き
同じく展望レポートによれば、CPIインフレ率(除く生鮮)の見通しは、2025~2027年度にかけて、2026年度が0.1pp上方修正されただけで、前回(10月)と概ね不変に維持された。また、展望レポートは2026年前半にインフレ率が2%を割り込む局面があるとの見方を維持した。
一方、基調的インフレ率が当面伸び悩むとの見方は削除され、 2%目標に向けて上昇し続けるとされた。理由については、経済見通しの上方修正に加えて、植田総裁は、政府の経済対策が、家計の実質購買力の増加と総需要の下支えの双方を通じて、基調的インフレ率を押し上げる効果を持つとの見方を示した。
この間、植田総裁の記者会見では、12月の利上げ時に加えて賃金上昇に対するウエイトが後退した印象もあった。しかし、その重要さが低下したわけではなく、企業収益の好調さや需給ギャップの改善等によって、2026年度の賃金上昇見通しに対する確度が高まったためとみられる。
展望レポートは、見通しが上下にバランスしているとの判断を維持したが、政策委員によるリスクバランスチャートは、上振れと下振れの双方が併存していることを示している。
一方で、記者会見では円安の影響が焦点となった。主な懸念は、 ①高市政権による財政拡張見通しによる影響、②日銀の政策運営のビハインドカーブ化の2点である。しかし、①の「本丸」は長期金利の上昇(後述)であるほか、②も、植田総裁が説明したように基調的インフレが見通し期間の後半に2%目標に収斂することと現在の政策運営は整合的である。
この点に関しては、むしろ、植田総裁が国内物価の為替変動に対する感応度の上昇を確認したことの方が重要だ。予てのコメントと同じではあるが、植田総裁は基調的インフレが目標に接近する中で注視する必要性も示唆した。展望レポートも、輸入インフレの基調的インフレへの影響をリスクとして明記した。これらを踏まえると、日銀として、あくまでリスクシナリオではあるが、ビハインド・ザ・カーブも考慮に入れ始めたことが窺われる。
一方、基調的インフレ率が当面伸び悩むとの見方は削除され、 2%目標に向けて上昇し続けるとされた。理由については、経済見通しの上方修正に加えて、植田総裁は、政府の経済対策が、家計の実質購買力の増加と総需要の下支えの双方を通じて、基調的インフレ率を押し上げる効果を持つとの見方を示した。
この間、植田総裁の記者会見では、12月の利上げ時に加えて賃金上昇に対するウエイトが後退した印象もあった。しかし、その重要さが低下したわけではなく、企業収益の好調さや需給ギャップの改善等によって、2026年度の賃金上昇見通しに対する確度が高まったためとみられる。
展望レポートは、見通しが上下にバランスしているとの判断を維持したが、政策委員によるリスクバランスチャートは、上振れと下振れの双方が併存していることを示している。
一方で、記者会見では円安の影響が焦点となった。主な懸念は、 ①高市政権による財政拡張見通しによる影響、②日銀の政策運営のビハインドカーブ化の2点である。しかし、①の「本丸」は長期金利の上昇(後述)であるほか、②も、植田総裁が説明したように基調的インフレが見通し期間の後半に2%目標に収斂することと現在の政策運営は整合的である。
この点に関しては、むしろ、植田総裁が国内物価の為替変動に対する感応度の上昇を確認したことの方が重要だ。予てのコメントと同じではあるが、植田総裁は基調的インフレが目標に接近する中で注視する必要性も示唆した。展望レポートも、輸入インフレの基調的インフレへの影響をリスクとして明記した。これらを踏まえると、日銀として、あくまでリスクシナリオではあるが、ビハインド・ザ・カーブも考慮に入れ始めたことが窺われる。
長期金利の上昇
記者会見では、多くの記者が長期金利の上昇に懸念を示し、日銀の対応を質した。植田総裁は、足元の動きが速い点を認めた一方、市場での経済や物価、財政に関する見方の修正が影響しているとの判断を示したほか、超長期債については期末要因での需給緩和も影響しているとした。
その上で、国債買入れの方針を常にMPMで議論しており、必要な場合は機動的な買入れを行う方針を確認したが、現在は政府との役割分担を意識しつつ、密接に連携することが重要との考えを強調したほか、機動的買入れを実施する上での具体的な条件には言及しなかった。加えて、財政に関する長期的な信認の維持が重要である点で政府と理解を共有している点も強調した。
植田総裁が指摘したように、長期金利の上昇には多様な要因が寄与している可能性が高い。このうち、金融市場における政策金利の見通しの上方修正による面があるとすれば、それは合理的であり、日銀が介入する理由にならない。一方、金融政策に関するビハインド・ザ・カーブの懸念による面があるとすれば、日銀が基調的インフレの見通しを説得的に示すことが必要だ。
その上で、ボラティリティの高まりに財政の先行きに対する思惑が影響していることは否定できず、根本的には政府と国会による対応とコミュニケーションによって対応せざるを得ない。ただし、日銀は依然として大量の国債を保有するなど、国債管理政策に影響を与える存在であることも事実だ。このため、金融市場が日銀の対応に期待してしまうのも避けがたい事象ではある。
その上で、国債買入れの方針を常にMPMで議論しており、必要な場合は機動的な買入れを行う方針を確認したが、現在は政府との役割分担を意識しつつ、密接に連携することが重要との考えを強調したほか、機動的買入れを実施する上での具体的な条件には言及しなかった。加えて、財政に関する長期的な信認の維持が重要である点で政府と理解を共有している点も強調した。
植田総裁が指摘したように、長期金利の上昇には多様な要因が寄与している可能性が高い。このうち、金融市場における政策金利の見通しの上方修正による面があるとすれば、それは合理的であり、日銀が介入する理由にならない。一方、金融政策に関するビハインド・ザ・カーブの懸念による面があるとすれば、日銀が基調的インフレの見通しを説得的に示すことが必要だ。
その上で、ボラティリティの高まりに財政の先行きに対する思惑が影響していることは否定できず、根本的には政府と国会による対応とコミュニケーションによって対応せざるを得ない。ただし、日銀は依然として大量の国債を保有するなど、国債管理政策に影響を与える存在であることも事実だ。このため、金融市場が日銀の対応に期待してしまうのも避けがたい事象ではある。
利上げの展望
経済見通しが上方修正され、下方リスクが低下したほか、基調的インフレの上昇見通しも維持された点で、植田総裁が確認した通り、金融緩和度合いの緩やかな調整に回帰する方針が明記されたことになる。この点は金融市場でも概ね共有されている。
この点には大きく2つの留意点がある。まず、足元で実際のインフレ率が減速する下で、利上げの合理性を示すことである。既にみたように基調的インフレの説得力に依存するが、実体経済が堅調さを維持すれば、その分だけ説明の困難さは低下する。
これに対し、植田総裁が記者会見で言及した既往の利上げの波及効果の評価は難しい問題である。効果の時間的ラグだけでなく、政府の経済対策の効果によって、本来は金利感応度が高い領域での影響が識別しにくくなる恐れがある。
また、米欧の中央銀行は中立金利(自然利子率)の上昇による「自動的」な緩和効果を意識しているが、植田総裁は政策金利が中立水準に近付いていることの方を意識しているように見える。
この点には大きく2つの留意点がある。まず、足元で実際のインフレ率が減速する下で、利上げの合理性を示すことである。既にみたように基調的インフレの説得力に依存するが、実体経済が堅調さを維持すれば、その分だけ説明の困難さは低下する。
これに対し、植田総裁が記者会見で言及した既往の利上げの波及効果の評価は難しい問題である。効果の時間的ラグだけでなく、政府の経済対策の効果によって、本来は金利感応度が高い領域での影響が識別しにくくなる恐れがある。
また、米欧の中央銀行は中立金利(自然利子率)の上昇による「自動的」な緩和効果を意識しているが、植田総裁は政策金利が中立水準に近付いていることの方を意識しているように見える。
プロフィール
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井上 哲也のポートレート 井上 哲也
金融イノベーション研究部
内外金融市場の調査やこれに関わる政策の企画、邦銀国際部門のモニタリングなどを中心とする20年超に亘る中央銀行での執務経験と、国内外の当局や金融機関、研究機関、金融メディアに構築した人脈を活かして、中央銀行の政策対応(”central banking”)に関する議論に貢献。そのための場として「金融市場パネル」を運営し、議論の成果を内外の有識者と幅広く共有するほか、各種のメディアを通じた情報と意見の発信を行っている。2012年には、姉妹パネルとして「バンキングパネル」と「日中金融円卓会合」も立ち上げ、日本の経験を踏まえた商業銀行機能のあり方や中国への教訓といった領域へとカバレッジを広げている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。