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政策委員の一人が利上げを提案

日本銀行は1月22・23日に開かれた金融政策決定会合で、政策金利を0.75%で据え置くことを決めた。やや予想外であったのは、9人の政策委員のうち1人が政策金利の1.0%への引き上げを提案したことだ。前回12月の会合で日本銀行は政策金利引き上げを決定したばかりであり、2会合連続の引き上げの提案は広く賛同を得られないだろう。
 
物価目標が達成されたもと、物価の上振れリスクが高いことが政策金利引き上げ提案の理由と説明されているが、物価上昇率はコメ価格の上昇一巡などにより、当面は顕著に低下することが見込まれる状況だ。
 
さらに、日本銀行の政策金利引き上げが遅れることで、景気が過熱し、物価上昇率が上振れる可能性が高まるといった「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクが大きいようには見えない。「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクがあるとすれば、経済・物価の上振れではなく、円安・株高といった金融市場の過度な変動だろう。

年前半の利上げの可能性は大きくない

9人の政策委員のうち1人が、政策金利の1.0%への引き上げを提案したことで、日本銀行の次回の政策金利引き上げ時期が早まる、との金融市場の期待を高める可能性はあるだろう。
 
しかし、政策委員会では議長(植田総裁)の判断に合わせる傾向が強く、今後政策金利の据え置きという議長案に反対して政策金利の引き上げを主張するのは2名にとどまるだろう。そのため、政策委員会内の利上げ提案に押されて、植田総裁ら執行部が早期の利上げに追い込まれるリスクは大きくないと考える。
 
今年前半に追加利上げが実施される可能性は高くなく、筆者は、利上げ時期は9月と現時点で考えている。

展望レポートでは成長率見通しが上方修正、物価上昇率見通しが横ばい

展望レポートでは、成長率見通しが上方修正された。実質GDP成長率の見通し(政策委員見通しの中央値)は、2025年度については前回昨年10月の+0.7%から+0.9%へ、2026年度については+0.7%から+1.0%に上方修正された。成長率見通しの上方修正は予想通りであり、トランプ関税の経済への悪影響が懸念されたほど大きくない点と、2025年度補正予算での経済対策の効果を反映したものとみられる。
 
他方、予想外であったのは、物価上昇率の見通しがほぼ維持されたことだ。消費者物価指数(除く生鮮食品)の上昇率見通し(政策委員見通しの中央値)は、2025年度については前回昨年10月の+2.7%と同水準、2026年度については+1.8%から+1.9%へと小幅に上方修正された。
 
コメの価格上昇の一巡、原油価格の下振れ、物価高対策でのガソリン暫定税率廃止、電気・ガス補助金の影響などから、2025年度、2026年度の物価上昇率は下方修正されると筆者は予想していた。
 
展望レポートで成長率見通しが上方修正、物価上昇率見通しが横ばいとなったことは、日本銀行の利上げ観測を後押しするものだ。

長期・超長期金利の上昇に日本銀行は打つ手なし

決定会合後の総裁記者会見、その他の日本銀行の情報発信で注目されるのは、足元での長期金利大幅上昇への対応だ。
 
実際には、金融政策で長期金利上昇を抑えることは難しい。いわば日本銀行には打つ手はない状況である。
 
物価上昇懸念を煽る円安の阻止に向けて、日本銀行がさらに利上げを進める考えを示すと、短めの金利のみならず、イールドカーブ全体が上方にシフトし、長期・超長期の金利のさらなる上昇を招いてしまう可能性がある。
 
他方、日本銀行が追加利上げに慎重な姿勢を見せると、円安が進み、将来の物価上昇懸念が高まり、やはり長期・超長期の金利のさらなる上昇を招いてしまう可能性がある。
 
一方、日本銀行は、指値オペや定例オペでの国債買い入れの増額を通じて、長期・超長期の金利の上昇を抑えることも可能だ。それらは、国債市場のボラティリティが高まる際に、投機的な動きを抑える目的で実施するものだ。
 
しかし足元の長期・超長期の金利上昇の原因は明らかで、高市政権の積極財政姿勢を映したものであることは疑いがない。そのため、日本銀行が国債買い入れを増加させても、それは長期・超長期の金利の押し下げ、国債市場の安定回復には一時的な効果しか持たないだろう。
 
円安とともに長期・超長期の金利上昇は、企業や家計の資金調達コストを高め、経済活動に悪影響を及ぼしかねない水準になってきた可能性がある。国債市場の安定を回復させることができるのは、高市政権がより財政健全化を重視する政策に転じること以外にはない。

マイナス金利政策の功罪が改めて問われる

日本銀行がマイナス金利政策を決定してから今回の会合でほぼ10年となる。決定会合後の総裁記者会見などでは、マイナス金利政策の評価が改めてテーマになるだろう。
 
筆者は、マイナス金利政策は、銀行の収益悪化を通じて金融仲介機能を損ね、また金融機関の過度なリスクテイクを促すことで金融システムのリスクを高めたと考える。他方、マイナス金利政策による景気・物価の押し上げ効果などは限定的であり、副作用が効果を上回ったと考えている。
 
さらに現時点でみれば、マイナス金利政策など異例の金融緩和を長期間続けたことが、足元での円安・物価高の原因の一つとなっており、それは、国民生活に相応の悪影響を及ぼしているのではないか。
 
日本銀行はそうした批判は受け入れないだろうが、マイナス金利政策の功罪については、今後もしっかりと議論されるべきだ。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。